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ニンニクヤサイ3Dマシマシ

by Akey
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お客さん、食えなさそうだから減らしといたよ。
店主は、オレの目の前にブツを置きながら、こう言い放った。
なんてことだ。オレの「ニンニク・マシマシ・チョモランマ・ヤサイ・トリプル・ビッグサンダーマウンテン」が完全に無視された。目の前のそいつはどう見ても「ニンニクヤサイマシマシ」程度である。ここが本物の二郎ならば、こんな無礼な真似は行われるはずがない。劣化インスパイアか…とオレは皮肉を込めて呟くも店主の観察眼の鋭さに感服する。なんてたって、オレはロット最遅であり、ロット乱しの元凶とも評される漢である。

「ニンニク・マシマシ・チョモランマ・ヤサイ・トリプル・ビッグサンダーマウンテン」とオレから命名されたこのブツは、最近の乳化系ではない。二郎がかつてカネシ商事の特製醤油を使っていた頃の言い方であれば、カネシが立ったという表現になるだろうか。当時、乳化系といえば多摩地区の少数の二郎だけだったと記憶している。乳化イコール多摩系という印象だった。カネシが立った二郎が普通だと思っていたオレにとっては、二郎に乳化は不要だと思える。関内二郎なんかぜんぜん二郎じゃないと思っていたが、今では乳化系二郎の方が多いらしい。

感慨に耽りながら、カネシが立ったと形容するに相応しいそのブツ。つまり、「ニンニク・マシマシ・チョモランマ・ヤサイ・トリプル・ビッグサンダーマウンテン」にレンゲを沈める。刹那にスープが溢れカウンターを汚す。慌ててカウンターを拭くオレ。苦笑いをする店主。

カウンターを拭く姿勢で視線が低くなり店の奥が目に入った。
製麺機だ。そして、オーションの袋。インスパイアには珍しく自家製麺のようだ。それも麦の香る強力粉。こうなると、頭の中でこの日の構成を考え始めてしまう。このボリューミーで肉厚なブタには、これまたガッチリとしたフルボディの赤で攻めるべきであるが、熟成しすぎていれば酸味が嫌味となり、この「ニンニク・マシマシ・チョモランマ・ヤサイ・トリプル・ビッグサンダーマウンテン」にそぐわないし、麺の香りの邪魔にもなりかねない。かといって若いものとなると…
オレは、店主にソムリエを呼ぶよう申しつけるが、店主はオレを無視して、こんな話をはじめる。

まだバブルの頃でしたかねぇ。ちょび髭で有名な山本某ってグルメ評論家がいたでしょ。その山本某氏がね。三田二郎に行ったんですよ。そしてこう言い放った「こんなものラーメンじゃねぇ!」ってね。二郎の代わりはないと云う最高の褒め言葉なんだが、周りにいた常連客がね。こう反論したっていうんだ「二郎はラーメンではない。二郎という名の食い物だ」ってね。山本某氏はまさにそう至言を述べているわけですが、この反論の方が今じゃ有名になっている。不可思議な話もあったものです。

麺を大鍋に投入しながら、このつまらない話を楽しそうに語る店主。

焦るオレ。あの大鍋の麺が茹であがればネクストロットが開始してしまう。カレントロットが終盤に来たというのに目の前のブツが一向に減る様子がない。オレの心情など預かり知らずとばかりに店主は話を続ける。
「二郎はラーメンではない。二郎という名の食い物だ」そりゃそうだと言いますか、ずいぶんと当たり前の言葉ですよね。そこへいくと、うちのは違うんですよ。インスパイアのくせに烏滸がましいですが二郎のさらに上を行っています。なんてたって、うちのはラーメンどころか食い物ですらない。

焦りに任せたオレは思わず言葉を漏らす。一向に減らないこのブツは一体…?

こいつは、3Dマシマシ。
喰おうたって喰えるもんじゃない。
心で味わうんです。

この店主、頭がおかしいんじゃないかという疑念がよぎる。
頭のおかしさに関しては負けてはいないつもりであるが、今回は店主に勝ちを譲ることにし、オレは着丼から全く変化のない丼をカウンターの上にあげ、無言で店を後にすることにした。

これが、この店との出会い。
ジロリアンカーストの最下層に属するオレでは、この店のブツを味わう資格がないと云うわけだ。

店主の話によると、開店直後ということもあり、まだ納得のいく仕上がりになっていないそうである。近いうちに湯気が立ち上がるようにアップグレードすれば、最終解脱完了ということらしい。

まだまだ知名度が低く行列店ではないが、研究熱心な店主の姿勢には敬服を禁じ得ない。



2021/05/04 追記:
店主の研究が実ったのか。
ブツから湯気が… しかし、ちょっと不自然な気もする。
店主よ。がんばれ。
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